特許調査ノート~技術の潮流を知財の視点で俯瞰する~|株式会社パトロ・インフオメーシヨン

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半導体サプライチェーンと特許

1. 背景

近年の半導体産業は、地政学的リスクの高まりを背景に、安全保障上の重要物資として位置づけられ、各国政府によるサプライチェーンの強靭化が本格化しています[1]。米国による国内工場建設への巨額補助金や欧州チップ法に加え、我が国でもラピダス社が2ナノメートル世代の量産に向けて千歳工場「IIM-1」の試作ライン稼働や実証実験を進めるなど、国家的な支援体制が整備されています[2]。AI需要の爆発的増加に伴い、最先端半導体を安定的かつ自国内で確保できる生産体制の確立は、産業の国際競争力だけでなく地政学的レジリエンスを高めるための核心的な課題となっています。

 

2. 技術要素

半導体の微細化は露光装置のレティクル限界(約858平方ミリメートル)といった物理的制約に直面しており、回路幅を縮小するだけでなく、デバイス構造の刷新や「アドバンスドパッケージング」へと競争の主軸が移行しています[4]。前工程では、リーク電流を抑制し静電制御性を極限まで高めるナノシート構造のGAAトランジスタや、配線混雑を解消する裏面電源供給(BSPDN)技術の導入が進んでいます[5]。一方、後工程では、複数のチップレットや高帯域メモリ(HBM)を同一基板上に異種統合する実装技術が不可欠となっています[3]。この統合プロセスにおいては、熱膨張による反りを防ぐガラスコア基板や、高純度な半導体封止材といった高付加価値部材が製造プロセスの歩留まりを左右する新たなボトルネックとなっており、材料開発での協調体制が極めて重視されています[6]。これらの動向を踏まえ、サプライチェーンを構築・維持するための主要な技術要素は以下の通りです。

●     ナノシート積層によるGAAトランジスタのチャネル精密制御技術[7]

●     信号配線と給電経路を分離し電圧降下を防ぐ裏面電源供給(BSPDN)技術[8]

●     開口数を高めて8nmの超高解像度を実現する高NA EUV露光技術[9]

●     異種チップを高密度かつ低遅延で接続する2.5D/3D先進パッケージング技術[10]

●     反りや割れを高度に制御する次世代ガラス材料および半導体封止樹脂技術[6]

 

3. 特徴的な特許分類

国際特許分類(IPC)の改定により、半導体技術分類は従来のH01Lから新設された「H10」クラスへ完全に移行し、実務的な特許調査の観点からも大きな転換点を迎えています[11]。以下に、次世代半導体の主要技術に関連する重要な特許分類を紹介します。

●     H10D 30/00:電界効果トランジスタ(FET): 最先端の2nm世代プロセス等で実用化が加速している、ナノシート構造を用いたGAAトランジスタのチャネル形成、選択エッチング、およびゲートスタックの成膜技術全般がここに分類されます。

●     H10W 20/481(CPC):基板またはウエハの背面(裏面)上の電気的接続 トランジスタ層の下部(ウエハの裏面側)から給電を行う裏面電源供給(BSPDN)技術において、裏面パワーレールやシリコン貫通電極(TSV)を形成する配線プロセスに適用されます。

●     H10W 70/618(CPC):ブリッジチップが埋め込まれたパッケージ基板、インターポーザ、再配線層 有機パッケージ基板内に微細なシリコンブリッジを埋め込んで異種チップ間を接続する、インテルのEMIB技術に代表される高密度2.5D実装技術に対応します。

●     H10W 90/00:パッケージ内の部品同士の相対的配置またはパッケージ同士の相対的配置:パッケージ構成 TSMCのCoWoS技術など、複数のロジックチップと高帯域メモリ(HBM)をワンパッケージに異種統合し、3次元スタッキングや平面配置を最適化する構成に付与されます。

●     G03F 7/20:露光;そのための装置:パターンの露光のための処理または装置 ASMLが提供する高NA EUV(開口数0.55)露光装置の光学投影系、反射ミラー、光源制御など、超微細パターン形成を実現するコアハードウェア技術全般を包含します。

 

4. 特許出願動向と注目技術

過去10年間における世界の特許出願動向を見ますと、前工程の極限微細化と後工程のパッケージング革新をめぐり、主要ファウンドリや装置ベンダーが強固な知財防壁を構築していることが分かります。以下に、この技術潮流を示す代表的な3報の特許を解説します。

まず、TSMC社の裏面電源供給特許(US11222892B2)は、ナノシートGAA構造においてチャネル下方に裏面パワーレールを形成し、配線混雑緩和とリーク電流低減を高度に両立させる製造プロセスを開示しています。

次に、TSMC社のパッケージング特許(US11133282B2)は、同社の「CoWoS」技術の根幹をなす、貫通ビアを有するインターポーザ上に複数の機能ダイを高密度に実装し薄型化する一連の製造フローを規定しています。

さらに、ASML社のEUV光源特許(US20160007434A1)は、錫滴ターゲットへプリパルスを照射して空間膨張させた後にメインパルスを当てることで、13.5nmの極端紫外線発光効率を劇的に高める制御手法を提案しています。

これらを含め、サプライチェーンを語る上で欠かせない代表的な特許公報5報を以下に整理します。

 

特許番号

発明の名称

出願人

公開日

Google Patents

US11222892B2

Backside power rail and methods of forming the same

TSMC

2022年1月11日

US11222892B2

US11133282B2

COWOS Structures and Methods Forming Same

TSMC

2021年9月28日

US11133282B2

US20160007434A1

Extreme ultraviolet light source

ASML (Cymer)

2016年1月7日

US20160007434A1

US10163798B1

Embedded multi-die interconnect bridge packages with lithographically formed bumps and methods of assembling same

Intel

2018年12月25日

US10163798B1

US9748352B2

Multi-channel gate-all-around FET

GlobalFoundries

2017年8月29日

US9748352B2

5. 今後の展望と課題

地政学的リスクを背景に各国の生産拠点誘致が進む中、先端半導体分野における知財戦略の重要性は極めて高まっています[1]。今後はファウンドリ、素材メーカー、装置ベンダーが一体となってエコシステム内での強固な知財包囲網を構築していく一方、競合他社による特許網を回避するための「特許調査」の重要性が一層増すと考えられます[12]。特に、新たな製造ラインの稼働や新パッケージング素材を導入するプロセスにおいては、他社の保有する基幹特許に接触するリスクが極めて高まるため、FTO調査を早期かつ多角的に実施することが必要不可欠です[13]。万が一、懸念される先行特許が発見された場合には、その特許権の有効性を否定するための「無効資料調査」を実施し、ライセンス交渉や設計変更を含めた対抗策を機動的に講じることが、自社の事業継続性を確保するための核心的要件になると想定されます。このように、知財実務を開発・事業戦略と完全に同期させることが今後の最重要課題となるでしょう。


[1]地政学リスクを踏まえた製造基盤強化等に関する検討会 中間取りまとめ - 経済産業省, https://www.meti.go.jp/shingikai/external_economy/geopolitical_risks/pdf/20260415_2.pdf

[2]ラピダスは工場稼働の最終段階、研究開発拠点も整備する! - 産業タイムズ社, https://www.sangyo-times.jp/article.aspx?ID=15075

[3]Understanding CoWoS Packaging Technology - AnySilicon, https://anysilicon.com/cowos-package/

[4]トランジスタは足りている。足りないのはパッケージングだ — CoWoS容量10倍でも売り切れる半導体の新しいボトルネック - Qiita, https://qiita.com/plasmon/items/e3de900cc9e103fd6b1b

[5]US11222892B2 - Backside power rail and methods of forming the same - Google Patents, https://patents.google.com/patent/US11222892B2/en

[6]AIのボトルネック技術、日本半導体企業にチャンス - 戦略家になろう!, https://free-lifestyle.com/ai-bottleneck-technology/

[7]GAA Nanosheet Transistor Stacking — PatSnap Eureka, https://www.patsnap.com/resources/blog/rd-blog/gaa-nanosheet-transistor-stacking-patsnap-eureka/

[8]Backside Power Delivery Network (BPDN) - Semiconductor Engineering, https://semiengineering.com/knowledge_centers/low-power/backside-power-delivery-network/

[9]ASML EUV and High-NA lithography technology roadmap - PatSnap, https://www.patsnap.com/resources/blog/articles/asml-euv-and-high-na-lithography-technology-roadmap/

[10]CoWoS and Advanced Packaging: How Chip Architecture Shapes Data Center Design, https://introl.com/blog/cowos-advanced-packaging-chip-architecture-data-center-2025

[11]Semiconductor IPC has completely transitioned from H01L to H10., https://www.harakenzo.com/en/news/semiconductor-ipc/

[12]<Samsung vs TSMC: 5nm to 2nm process roadmap showdown - PatSnap, https://www.patsnap.com/resources/blog/articles/samsung-vs-tsmc-5nm-to-2nm-process-roadmap-showdown/

[13]High-NA EUV lithography patent landscape 2026 - PatSnap, https://www.patsnap.com/resources/blog/articles/high-na-euv-lithography-patent-landscape-2026/

[14]Prior Art Search Report: FinFET Structure with Improved Gate Dielectric Reliability at 3nm Node - SciSpace, https://scispace.com/ai-agent-seo/page-files/prior-art-search-assistant-industry-xey5ou6j.pdf

 


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