ゲームと特許
1. 背景
2025年、ゲーム産業は世界で1,888億ドル規模に成長し、オンライン人口の6割近い約36億人が何らかの形でゲームを楽しむまでに普及しています[1]。ゲームは単なる娯楽の枠を超えて社会現象となり、eスポーツ大会が数千万規模の視聴者を集めるなどスポーツに匹敵する存在感を示しています。こうした巨大市場において、技術革新がゲーム体験を支え、同時に特許による知的財産保護の重要性も増しています。たとえばVR(仮想現実)やAR(拡張現実)の導入、AIによるゲーム内容の自動生成、さらにはクラウドゲーム配信や周辺デバイスの高度化など、ゲーム分野の技術と社会との接点は広がり続けています。その結果、ゲーム関連の発明を特許で保護しようとする動きが活発になり、ゲーム業界と知的財産の関係が注目されています。
2. 技術要素
ゲーム業界では技術の進歩と創意工夫がプレイヤー体験の向上に直結するため、各社がこぞって新技術を開発しています。ただ、こうした技術に特許が与えられることにより、他社が類似の仕組みを用いることが制限される場合もあります。そのため「ゲームの特許」には賛否両論があり、革新的なゲーム体験を保護しつつも業界全体の発展とのバランスを取る必要性が議論されています。例えば、過去にはバンダイナムコがロード画面中のミニゲームに関する特許[2]を取得し20年間他社が同様の機能を実装できない状況が続きました(この特許は2015年に期限切れ)。近年では、ゲームのルールや演出そのものを特許で保護しようとするケースも見られ、代表例として他社ゲームでも話題となった「ネメシスシステム」という敵キャラクターがプレイヤーとの過去の対戦を記憶し復讐心や物語に反映する画期的なゲーム機構が挙げられます[3]。また位置情報を用いたARゲームの隆盛もあり、現実世界の地理データと仮想空間をリンクする技術や、サーバーを介した大規模なモバイルゲーム運営技術なども各社が競って開発・特許出願しています。さらにプレイヤーの熟練度に応じゲーム難易度を自動調整する試み[4]や、クラウド技術を駆使したストリーミングゲームサービスなど、新しいゲーム体験を巡る技術競争が進んでいます。
以上の状況を踏まえ、ゲーム分野で注目される主な技術的要素を以下に抽出します。
· モーションセンサー入力技術(例:コントローラやVRデバイスでの加速度・ジャイロによる体感操作)
· 位置情報活用技術(例:GPSを用いた位置連動型ゲームやARゲーム)
· ゲーム内容の自動生成・適応技術(例:AIによる難易度調整やプロシージャルマップ生成)
· 観戦・配信連動技術(例:ゲーム実況や観客がゲームに影響を与えるインタラクション)
· ロード時間等の副次コンテンツ技術(例:ロード画面中に遊べるミニゲームの実装)
3. 特徴的な特許分類
ゲーム関連技術は国際特許分類(IPC)上、主にAセクションの娯楽分野に分類されます。特に深い階層の分類の例として、以下のような具体的グループが存在します。
· A63F13/211 – ゲーム用入力装置における慣性センサーの使用(例:加速度計やジャイロを用いた体感型コントローラ)
· A63F13/216 – ゲーム用入力装置における位置情報の使用(例:GPS等で取得したプレイヤーやデバイスの位置をゲームに反映)
· A63F13/67 – ゲーム内容の生成または変更(プレイ中または実行前)をプレイヤー動作から学習して行うもの(例:プレイヤーの熟練度に合わせた難易度調整やコンテンツ自動生成)
· A63F13/86 – 他のプレイヤーによるゲームの観戦(例:他人のプレイ映像を視聴したり実況に参加する機能)
· A63F13/88 – メインゲームのロード中に独立して実行されるミニゲーム(例:ロード待機時間に遊べるサブゲーム)
4. 特許出願動向と注目技術
この10年でゲーム関連の特許出願は世界的に増加傾向にあり、日本を含む各国で大手ゲーム企業だけでなくスタートアップやハードメーカーからも出願が相次いでいます。特に2016年前後からVR/ARブームやモバイル位置ゲームの大ヒット(例:Pokémon GO)を背景に、VRデバイスやARプラットフォームに関する発明、位置連動システムの特許が多数公開されています。またAI技術の進展に伴い、ゲームAIや難易度調整、コンテンツ自動生成に関する出願も増えました。各社の出願動向を見ると、ソニーや任天堂、マイクロソフトといったプラットフォームホルダーはハードウェア・周辺機器に関する広範な特許ポートフォリオを形成しつつあり、例えば任天堂は自社ハード「Switch」を用いたVRゴーグルアタッチメントを提案する特許を公開しています[5]。一方、ゲームソフト会社も独自のゲームシステムを特許で保護する例が見られます。以下に、近年注目を集めたゲーム関連の特許を3件紹介します。
まずWarner Bros. Entertainmentは、中つ国を舞台としたアクションゲームシリーズで導入された「敵NPCがプレイヤーとの過去の戦闘結果に基づき階級や振る舞いを変化させるシステム(Nemesisシステム)」について米国特許第10,926,179号を取得しました。この特許は2016年に出願され2021年に成立したもので、同様のゲームデザインを他社が実装することを事実上困難にしています。
また、スマートフォン向け位置情報ゲームの草分けであるNiantic社(旧グーグル社内)は、自社の位置ゲームに関する基盤技術で複数の特許を保有しています。例えば米国特許第8,968,099号「パラレルリアリティゲームにおける仮想オブジェクト運搬システム」は、現実の地理と連動した仮想空間内で、プレイヤー間で仮想アイテムをやり取りする方法を保護するもので、プレイヤー同士が同時・同所に居なくてもアイテム交換や間接対戦が可能になる仕組みを実現しています[6]。この技術は『Pokémon GO』における「ジムバトルで他プレイヤーの残したポケモンと戦う」機能の土台ともなりました。
さらにElectronic Arts (EA)は、ゲームプレイヤーの離脱を防ぐ目的でプレイ履歴データに基づきゲームの難易度を自動調整する動的難易度調整システムを開発し、米国特許第10,286,323号を2019年に取得しました。これは機械学習により各ユーザーのプレイ傾向から最適な難易度を予測し、ゲーム中にリアルタイムで難易度パラメータを調節する技術で、プレイヤーがゲームに長く没頭できるように、バックグラウンドで難易度を微調整する点に特徴があります。このように、ソフトウェア上のゲーム運営アルゴリズムに関する特許も登場しています。
上記で取り上げたものを含め、近年のゲーム関連特許5件を以下の表にまとめました。
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特許番号 |
発明の名称 |
出願人(権利者) |
公開日(発行日) |
Google Patentsリンク |
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US10926179B2 |
Nemesis characters, nemesis forts, social vendettas and followers in computer games(通称「ネメシスシステム」) |
Warner Bros. Entertainment Inc. |
2021/02/23 |
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US8968099B1 |
System and Method for Transporting Virtual Objects in a Parallel Reality Game |
Google Inc. (Niantic, Inc.) |
2015/03/03 |
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US10286323B2 |
Dynamic difficulty adjustment (自動難易度調整システム) |
Electronic Arts Inc. |
2019/05/14 |
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US11011142B2 |
Information processing system and goggle apparatus (VRゴーグル装置に関する発明) |
Nintendo Co., Ltd. |
2021/05/18 |
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US11148061B2 |
Spectator vote to bench players in a video game (観客によるeスポーツ参加機能) |
Sony Interactive Entertainment |
2021/10/19 |
5. 今後の展望と課題
ゲームと特許の関係は、今後さらに複雑かつ戦略的な局面を迎えると考えられます。VR/AR、AI生成コンテンツ、メタバースといった新潮流の加速に伴い、ゲーム分野ではソフトウェアアルゴリズムからユーザー体験設計に至るまで、幅広い領域で特許出願が増加することが予想されます。こうした環境下では、単に権利を取得するだけでなく、開発初期段階から体系的な特許調査を行い、自社技術の位置づけや競合動向を把握することがますます重要になります。
一方で、ゲームのルールや演出といった“体験そのもの”に近い領域まで特許権が及ぶケースも増えており、新規タイトルや新機能の開発に際しては、既存特許との抵触リスクを見据えた侵害予防調査(FTO調査)が不可欠となります。特に海外特許を含めた網羅的な調査を怠ると、リリース後に思わぬ権利侵害問題へ発展する可能性もあります。
さらに、競合他社の強力な特許に直面した場合には、その有効性を検証するための無効資料調査も重要な選択肢となります。先行技術の発掘によって特許の新規性・進歩性を争える余地が見いだされることもあり、攻めと守りの両面から知財戦略を構築する姿勢が求められます。
ゲーム産業は創造性が価値の源泉である一方、巨大市場ゆえに知財リスクも高い分野です。今後は、革新的な技術や表現を適切に保護しつつ、過度な権利独占によって開発の自由度が損なわれないようバランスを取ることが課題となります。そのためにも、継続的な特許調査を基盤とし、侵害予防調査や無効資料調査を組み合わせた実践的な知財マネジメントが、ゲーム産業の持続的発展を支える重要な要素になると考えられます。
[1] Global games market to hit $189 billion in 2025 as growth shifts to console
https://newzoo.com/resources/blog/global-games-market-to-hit-189-billion-in-2025
[2] https://patents.google.com/patent/US5718632A/en?oq=us5718632
[3] Shadow of Mordor's innovative Nemesis system is locked behind a patent until 2036
[4] EA patents vide game dynamic difficulty adjustment to keep players engaged
https://www.syfy.com/syfy-wire/ea-games-patents-difficulty-adjustment-based-on-playstyle
[5] Nintendo Could Be Making a New Labo VR Add-on for Its Next Switch
https://www.roadtovr.com/nintendo-labo-vr-switch-2-patent/
[6] Pokemon Go developer Niantic owns three patents on location-based gaming - IPWatchdog.com | Patents & Intellectual Property Law
https://ipwatchdog.com/2016/08/10/pokemon-go-patents-location-based-gaming/


